ハーバード白熱日本史教室(北川智子)

ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

筆者は、「印象派歴史学」という、歴史学の中でも新しいアプローチの活動('Lady Samurai''KYOTO'などの講義をハーバードで開講中)を通し、第二次大戦後から現在まで「大きな物語(Grand Narrative)」を失った日本に
目に見える形でイデオロギーを作ることを活発化しよう
と読者にメッセージを送っている。
※ここで「イデオロギーを作る」とは、「日本とはなにか、という問いに確固たる答えを構築しよう」ということ。

政治、歴史認識に絡む問題は、日本ではトラブルの種になりやすいイメージがあるので、意見を表明するには勇気が要るが、
筆者は独自のスタイルで活動していて、共感するし、メッセージの趣旨は理解できると思った。
働きはじめて、歴史、政治、社会と自分の生活/仕事は繋がっている、と日々思うので。

技術革新で世界がどんどん一つになっていっていて、世界情勢の変化がこれまでより速い時代だ。
日本の場合、以下1〜3のサイクルを回す速度は、今の世界変化速度におそらく見合っていない。
1. 今の観点からの日本史の再認識
2. 日本のアイデンティティーの確立
3. 国づくりに反映
不況が続き、社会が高齢化し、技術が競争力を失い始め、災害に見舞われている今だからこそ、
日本が世界に対し信頼を再構築し、信頼され続けるには、対外的にも対内的にも国づくりをしっかりしないといけないだろう。
政治、社会、経済がしっかりして、のびのび生活できたらな、というのが私の願い。

ただし、ナショナリティーとアイデンティティーが同化しない個人もいるだろうな、と思う。
生活にイデオロギーを必要としない人が多い日本に、彼女がどう活動を発信/展開するか、長期的な挑戦になるだろう。

北川さんの活動のタイムリーさ、スピード感には驚嘆する。
彼女は、次のプロジェクトで早くも動き出しているとのこと。
逆風もあろうが、リードしてほしい。ぜひ、支援したい。

Dr. Kit's History Lab
http://kitagawa.fas.harvard.edu/icb/icb.do?keyword=k80214&pageid=icb.page422069

[メモ]
・目次を読んで、全体をざっとさらうと、筆者の自己紹介、筆者の講義の紹介、筆者の思いのエッセイだと思ったが、丁寧に読んでいくと、明確なメッセージと味(アジ)のある素晴らしい本だった。(それでこの価格はとてもありがたい。)

京大とハーバードのLearning Systemの同じところ・ちがうところ
・ハーバードの公正、公平な評価システム
・ハーバードでは「教える」ことがシステマティックにできている。
・日本では、職人、徒弟制、背中で覚えろ。京大では楽勝科目、仏、さぼりなど。自由放任。学生もフラストレーション。研究室に入ると大変。
・日本はさらに、会社に入るとまた同じような研修がある。

・筆者の講義は面白そうだし、実際にお会いしてみたいな、と率直に思った。日本で講演があれば、私は行くだろう。
・北川さん 高度な内容を限られた時間を有効活用し、わかりやすく教えている。京都大学の私が習ってきた教授たちとは、授業への準備の熱の入れ方がちがうと感じた。

・世界一の大学ハーバードはそれはそれで、小さなコミュニティ。